重要課題(マテリアリティ)への取り組みとKPI
当社グループは持続可能な社会の実現に貢献するため、ステークホルダーの課題、当社グループの企業理念や役割、成長戦略を踏まえ、重点的に取り組むべきESG経営に関する6つの重要課題(マテリアリティ)を特定しています。
これらの取り組みは各重要課題に対応するSDGsの達成につながるものであり、当社グループとしてステークホルダーや社会から期待される役割を認識したうえで、課題の解決とSDGsの達成を目指し、積極的に取り組んでいます。
各事業本部が、重点的に取り組んでいくテーマを選定し、具体的なアクションプランを作成のうえ、取り組みを推進するとともに、サステナビリティ委員会において、定期的に進捗状況のモニタリングを行っており、事業戦略と連動しながらPDCAサイクルを回していくことにより、着実に成果を上げています。今後もマテリアリティへの取り組みについて、その成果を評価する指標(KPI:Key Performance Indicator)により実行をフォローし、確実に推進を図っていくことで、持続的な社会の成長への貢献と企業価値の向上に努めていきます。
洋上風力発電用基礎鋼材の拡販とサプライチェーンの構築

脱炭素社会の実現に向けて
洋上風力発電の普及に挑む
導入拡大が見込まれる洋上風力発電では、タワー、基礎部分(ジャケット、モノパイル)、変電所等に大量の鋼材が使用されます。当社はそれらの用途への厚板の拡販とサプライチェーンの構築に注力しています。
洋上風力発電とは
風力発電は、風の力を利用し、ブレードと呼ばれる風車の羽の部分を回転させることで電力を起こす再生可能エネルギーですが、海上に設置された風車を利用した洋上風力発電が新たなトレンドとなっています。日本では、陸上風力発電の開発が進んでいることもあり、適地が少なくなっていますが、海上については周りに障害物が無く、特に日本の海洋は風が強く、安定している地域が多いことから、ポテンシャルは非常に大きいと考えられています。洋上風力発電には、発電機を海底に固定する「着床式」と洋上に浮かべる「浮体式」の2種類がありますが、現在はコストが低い「着床式」の建設が先行して進んでいます。
洋上風力発電に取り組むことになったきっかけ
2017年、台湾電力をはじめとする台湾の洋上風力発電の関係者がサプライチェーン構築調査の目的で来日し、日本製鉄や日鉄エンジニアリングを訪問しました。その際、当社が日程アレンジや関係者紹介などの対応を行ったことがきっかけとなり、洋上風力発電への取り組みがスタートしました。その後、台湾最大の鉄鋼メーカーである中国鋼鉄が、ジャケット用厚板の新工場を建設することとなり、当社がそのノウハウを持つ日鉄エンジニアリングとのパイプ役を担ったことで、洋上風力発電に関する多くのノウハウを学び、欧州や東南アジアの関連企業へ営業活動を展開、現在に至っています。
当社の役割

当社は、ジャケット製作で豊富な経験を持つ日鉄エンジニアリングと協業し、施主- ゼネコン- 加工業者をつなぐ洋上風力発電におけるサプライチェーンづくりに参画しており、その役割について関係者から高い評価をいただいています。
当社は、日本における2番目の洋上風力発電案件である石狩湾新港洋上風力発電所新設工事において、日本製鉄製のジャケット用厚板を日鉄エンジニアリングに納入することで、同発電所の建設に貢献しました。同発電所は2024年6月に工事が完了し、8月から運転が開始されています。
今後の展望について

日本における「着床式」洋上風力発電の開発案件は、石狩湾新港のような港湾区域の4件のほか、一般海域案件の10件(第1ラウンド:4件、第2ラウンド:4件、第3ラウンド:2件)、有望区域案件の9件、準備区域案件の8件、その他8件の計35件が公表されています。
また、2024年6月には、「浮体式」洋上風力発電の実用化を目指して実証実験を行う海域と事業者が決定しました。「浮体式」は、鋼構造物や係留チェーン、アンカーなど「着床式」とは異なる材料や部品が使用されるため、取引拡大のチャンスとなります。
当社は、今後も日本製鉄グループの一員として、新たな投資先の発掘や商権の獲得に努め、洋上風力発電のサプライチェーンを構築し、その普及を推進することで、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
国土強靱化を支える鋼管杭・鋼矢板の拡販

持続可能な社会を築く
国土強靱化を担う鋼管杭・鋼矢板の拡販に挑む
鋼管杭・鋼矢板は、ビルや橋梁などの基礎部分を支える重要な建設資材です。完工後は土や水の中に隠れ、目に見えることは少ないですが、我々の生活を支える重要な役割を果たしています。当社は、国土強靱化を担う鋼管杭・鋼矢板の拡販に注力しています。
鋼管杭・鋼矢板の特徴と用途
鋼管杭は高強度、高耐久性・施工性が特徴で、主にビルや橋梁の基礎、軟弱地盤の補強や地盤沈下の防止等の地盤改良、地震や洪水等の防災対策として使用されます。鋼矢板は優れた止水性と施工性を持ち、河川護岸、港湾岸壁、止水壁、耐震補強、災害復旧、仮設の土留め工事などに使用されています。また、激甚化する豪雨対策としての調整池・調節池などの止水壁としても使用されています。
国土強靱化とは

引用:日本製鉄グループ『国土強靱化』ソリューションカタログより
国土強靱化は、災害に強い国づくりを目指す取り組みです。2013年に施行された「国土強靱化基本法」に基づき、過去の大災害を教訓に、甚大な被害を未然に防ぐための対策を平時から行うことを目的としています。具体的には、森林の保全、堤防や道路ネットワークの整備・強化、インフラの老朽化対策、密集市街地の整備などが含まれます。これにより、災害時の人的・経済的被害を減らし、災害後も住み続けられるまちづくりを実現することを目指しています。国土強靱化は、持続可能な社会を構築するために必要不可欠であり、SDGsとも密接に関連しています。
当社の役割
建材営業部では、鋼管杭・鋼矢板をはじめとする建材商品を販売しており、その約3割が国土強靱化に資する工事に使用されています。取引先である建設会社からの依頼に対し、工事の入札前に建材商品の見積もり、納期、納入計画などをコーディネートする役割を担っています。特に国土強靱化に向けたプロジェクトでは、洪水対策としての調整池や調節池の整備、老朽化したインフラの補強、耐震対策などにおいて、鋼管杭・鋼矢板は欠かせない存在であるため、注力して拡販しています。


今後の展望
2023年6月には、国土強靱化に関する施策を計画的かつ着実に推進するため、国土強靱化実施中期計画に関する規定及び国土強靱化推進会議に関する規定を設ける基本法の改正が行われました。国土強靱化は、日本の持続可能な発展に欠かすことのできない取り組みです。鋼構造の特長である粘り強さ、品質の安定性、環境にやさしいリサイクル性を活かした材料・工法を提供し、防災・減災の観点からインフラ整備に貢献することで、国土強靱化を通じて持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。
システム建築は工場・倉庫の建築分野でスタンダードな工法へ

低コスト・短工期・高品質
「システム建築」が建築主の事業課題解決の一助に
システム建築の主な対象は工場・倉庫です。工場は、半導体関連の建設投資やサプライチェーンの国内回帰の需要、倉庫は、2024年問題への対策としての拠点整備や老朽化に伴う建て替え需要が高まっています。一方で、労働時間の短縮や人手不足による工期の長期化、資材価格の上昇が建築主の課題となっています。また、建設業界はSDGsへの取り組みが遅れており、その解決策としてシステム建築が注目されています。
システム建築とは

システム建築は、建物の柱間や高さの寸法を規格化し、部材を標準化して、あらかじめ工場で製作する比率を高める工法です。これにより、現場施工の手間や不均一性を減らし、標準的な工場・倉庫であれば、一般工法と比較して工期・コストを約25%圧縮できます。また、基礎システムでの残土・コンクリート量の低減、部材のモデュール化・標準化による鋼材使用量・鉄骨溶接量・ロスの低減や、全国に配置した部材製作拠点からの供給体制による高い輸送効率など、カーボンニュートラルにつながる点が多いという特徴もあります。
日鉄物産システム建築が選ばれる理由
システム建築を提供するメーカーは複数ありますが、当社は平屋だけでなく2階建てまで対応可能で、バリエーションが豊富な基礎・鉄骨システムを組み合わせた商品レパートリーの広さは業界随一です。特に、様々な地盤条件に対応できる独自の基礎システムは、設計面での最適化、現場施工面での大幅な省力化による工期短縮、更にコストダウンが図れ、他社との差別化につながっています。当社は、半世紀近い歴史の中で積み上げた独自の技術とノウハウを持つ専業メーカーとして、過去4,500棟、毎年200棟を超える実績があり、当社商品を何度も採用いただくリピーターが全国各地に広がっています。
今後の展望について
工場・倉庫建築分野で、ターゲットとなる700~7,000㎡規模のマーケットでは、当社を含むシステム建築のシェアは30%を超えていると推定され、今や「システム建築」はこの領域においてはスタンダードな工法になりつつあります。「環境にやさしい」「働く人にやさしい」といったコンセプトを持ち、省力化を目指した建物を低コスト・短工期・高品質で実現するシステム建築が、建設業界の課題を解決しながら、地域社会の発展に貢献し、「建築主様にとって最適なソリューションとは何か」を追求し続けることによって、今後も事業を成長させていきます。


炭素繊維の拡販

次世代素材で脱炭素社会の実現へ
炭素繊維の普及に挑む
軽量でありながら非常に高い強度と弾性を持つため、様々な先端技術分野で利用される炭素繊維。その特性から、風力発電用のブレードや水素タンク、燃料電池等、脱炭素社会の実現に大きく貢献する製品の材料として使用されており、産機・インフラ事業本部では、約15カ国向けに炭素繊維の拡販を行っています。
炭素繊維とは
炭素繊維は、炭素原子が結晶構造を形成した非常に細い繊維であり、アクリル繊維または製鉄副産物のコールタールピッチを高温で炭化してつくられています。炭素繊維は「軽くて強い」素材として、身近な自転車やゴルフクラブ、テニスラケットなどのスポーツ用品から、安全性にかかわる建築補強や自動車部品、飛行機、人工衛星に至るまで幅広く使用されています。
脱炭素社会の実現に向けた炭素繊維の主な用途
風力発電ブレード
風力発電は主要なクリーンエネルギー源として、欧米や中国、インドを中心に導入量が急速に拡大しています。発電効率の向上のため、ブレードの大型化が進んでおり、最近では直径が140m を超える大型ブレードも開発されています。ブレードが長くなることでより多くの風を受けることができるため、発電効率を向上できる半面、回転時や風力によるたわみでブレードが支柱にぶつかり、破損するリスクが高まります。軽量かつ剛性の高い炭素繊維複合材料を使用することでそのリスクを未然に防ぐことができるため、炭素繊維の使用量は年々増加しています。
水素タンク
水素を活用した脱炭素化が世界各国で進められています。水素社会実現のためにはサプライチェーンの確立が急務であり、水素の貯蔵と輸送に必要な圧力容器の需要が拡大しています。金属や樹脂ライナーに炭素繊維を巻き付けることで、軽量かつ貯蔵効率の高い圧力容器の設計・製造ができるため、炭素繊維を使用した高圧容器のニーズは年々高まっています。
燃料電池
燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて発電するクリーンなエネルギー源であり、主に燃料電池車(FCV)に搭載されます。炭素繊維をペーパー状にしたものが、燃料電池の部材のガス拡散層に用いられており、炭素繊維の優れた導電性・排水性・ガス透過性は、FCVの燃費向上・長寿命化に寄与しています。今後、FCVの普及が進む中で、炭素繊維の需要は更に高まることが予想されます。
今後の展望について
産機・インフラ事業本部では、風力や水素を中心に多様な用途向けに高品質な炭素繊維を供給することで、お客さまやサプライヤーとともに各国のグリーンエネルギーへの転換をサポートしています。今後も新たなサプライチェーンの構築や販売体制の強化に取り組み、高まる需要と要望に応え、世界各国の持続可能な社会の実現に貢献していきます。

Centaco社(タイ)との取り組み

健康志向とたんぱく質危機への対応に
100%植物性たんぱく質で育てた鶏肉で社会的ニーズに貢献を
食糧事業本部では、タイのCentaco社と共同で、魚粉や油脂などの動物性たんぱく質を一切使用せず、100%植物性たんぱく質の飼料で育てた鶏肉を「Botanical Chicken(ボタニカルチキン)」としてブランド化し、商品展開を行っています。
Centaco社について

Centaco 社は、養鶏から加工・販売まで一貫生産体制を持つ養鶏分野のリーディングカンパニーです。食の安全や品質にこだわり、国内外の顧客に商品を販売しています。当社はCentaco 社と40年以上にわたる取引関係を有しており強固な信頼関係を構築しています。
Botanical Chicken(ボタニカルチキン)とは

「Botanical Chicken」は、当社のオリジナルブランド商品です。エシカル消費などの社会的ニーズに対応した商品を販売したいとの思いから、2023年6月より、Centaco社と共同で商品化プロジェクトをスタートさせました。
養鶏に100%植物性たんぱく質の飼料を使用し、加工工程においてもCentaco社に当社専用の生産ラインを設け、当社が貸与したX 線検査機による出荷直前の検品を通過した商品のみを「Botanical Chicken」としてブランド化し、「安心・安全」な商品を提供しています。
SDGsとのかかわり

植物性たんぱく質の飼料で育てた鶏は、動物性たんぱく質の飼料で育てた鶏に比べ、高たんぱく・低脂質(当社調べ)であるため、健康志向が高まる昨今の需要に対応することができ、これにより、人々の健康維持・改善を推進することが期待できます。
また、飼料となる動物の確保が不要となるため、世界的な人口増加や新興国の経済成長に伴う食肉需要の拡大、及び消費者ニーズの多様化等を背景としたたんぱく質需要の増加からなる「たんぱく質危機」への対応にもつながると考えています。
今後の展望について
「Botanical Chicken」の販売は始まったばかりですが、健康志向やたんぱく質危機への対応などの社会的ニーズから、今後も需要の伸びが期待されます。当社の取り扱い数量も一層の増加が予想され、Centaco 社では2027年に工場の増設を予定しています。また、ブラジルのサプライヤーとも同じコンセプトで商品づくりを開始しており、ブラジル産を好む顧客に対しても2024年の秋から冬にかけて販売を開始する予定です。
国産の鶏肉を好む量販店にも、少しずつ外国産の鶏肉が置かれるようになってきています。今後も健康で安心・安全な100%植物性たんぱく質の飼料で育てた鶏肉を販促していくことで、当社のマテリアリティの一つである循環型社会・サステナブルな暮らしに貢献していきます。
オリジナルブランド「UNDYED®」の展開

環境にやさしいだけでなく、その先へ
「UNDYED®」で染めないファッションをつくる
MNインターファッションでは、天然原料そのままの色、風合い、心地よさを感じるモノづくりをコンセプトに、化学染料・薬品の使用を抑えたオーガニックコットンを使用したオリジナルブランド「UNDYED®(アンダイド)」を展開しています。
UNDYED®(アンダイド)とは

「UNDYED®」は、染色や漂白を行わずに天然原料そのままの色や風合いを活かした製品をつくる素材レーベルです。オーガニックコットンを使用し、染色や漂白を行わずに製品をつくり上げることで、環境負荷を最小限に抑えています。これにより、自然の色合いや風合いをそのまま楽しむことができ、自然と調和した持続可能なファッションの提供を可能にしています。
UNDYED®に取り組むことになったきっかけ

繊維産業は、原料となる綿花の栽培から製品に至るまでに大量の水を使用・排水するため、環境負荷が高い産業と言われています。一枚のTシャツをつくるのに2トン以上の水が必要で、染色工程では年間にオリンピック用プール200万杯分の水が使われています。
持続可能なモノづくりを検討する中で、無駄な水の使用を避けることに加え、化学染料や薬品を使用する染色工程を省くことができれば、環境負荷を最小限に抑えるだけでなく、その服を着る人や生産する土地・人々にも安心と安全を提供できるのではないかと考え、このブランドに取り組み始めました。
UNDYED®の特徴
「UNDYED®」は、生物・昆虫学者のサリー・フォックス女史が量産に成功したカラードオーガニックコットンを採用しています。「UNDYED®」の生地は化学染色や薬品を使用せず、漂白も行わないため、柔軟剤を必要とせず、原料そのままの風合いを重視しています。そのため、色ごとに縮率が異なることや綿カスが残る、糸ムラが生じることもありますが、本コンセプトに共感いただけるお客さまとともに取り組みを進めています。
また、「UNDYED®」で使用するオーガニックコットンは、茶、緑、白の3色からなりますが、これに鉄媒染の手法を用いることでカーキ色や杢グレーの色を出すことに成功しており、カラーバリエーションが広がったことでファッションとしての用途の幅も広がりました。
今後の展望について

当初はSDGsやサステナブルの視点から始動した取り組みですが、今では無染色でもファッションが楽しめ、スタイルとして成立することを認知・共感してもらうことも目的の一つとなっています。
現在は国内での活動に注力しており、共感いただけるお客さまを着実に増やしながら取り組みを進めています。今後は、更に多様な素材やデザインを取り入れ、持続可能なファッションの可能性を広げていく予定です。また、環境への配慮だけでなく、地域社会や生産者との協業関係を強化し、より良い製品の提供を目指していきます。